Blogot - 旅とF1と車と男の嗜み

旅とF1と車と男の嗜みをテーマとした後藤康成のブログ。

雨の日には車をみがいて - たそがれ色のシムカ

「雨の日には車をみがいて」は全体の編を通して「素敵な女性と車との出逢いと別れ」がテーマになっています。最初の編は「たそがれ色のシムカ」です。この編に登場する歌手の卵の「火見瑤子」が発した一言がこの本のタイトルを決定的にしていると共に短編集全体の方向性をも決定づけています。

SIMCA 1000
This file was published in Hans Stedehouder's Garage de l'Est website. All photos placed on that site are licensed under CC-BY-SA 3.0 (unported)

この「シムカ」(SIMCA)という自動車メーカーは日本人にはあまり馴染みがないかもしれませんね。 SIMCAは1934年にフランスに設立されました。その後1963年がクライスラーがヨーロッパ進出のために買収。そして1978年にはシムカブランドはタルボに置き換えられたことで終了しました。したがって現在では製造されていない自動車です。ちなみにSIMCAとは「自動車車両車体工業会社」(Société Industrielle de Mécanique et Carrosserie Automobile )の略だそうです。

物語に登場するモデルはシムカ1000で1961年から1978年まで生産されました。

年式不明のおんぼろのシムカ1000だったというのは、今から考えるとなんとなく滑稽な気がしないでもない。だがそれは年式不明の中古車とはいえ、一応れっきとした欧州車である。

物語では1962年以後に製造された年式不明とのこと。時代背景が1966年なので、1962年から1964年ごろに生産されたシムカ1000ということになります。写真で見て分かる通り、そのフォルムはスタンダードな4ドアセダン(ちょっと初代サニーに似ていますね)。パワーユニットは直列4気筒OHV944cc・50馬力のリアエンジン・リアドライブで4速マニュアルシフトです。 乗り心地はというと、物語では以下のように綴られています。

「案外なかは広いのね」
と乗りこむと瑤子は言った。
「でも、なんだかドアが完全にしまらないみたいよ」
「大丈夫。そのルーズさがドイツ車とちがうフランス社の魅力のひとつでね」
「へぇ、かなりいいこと言うじゃないの」

まぁ欧州車というとドイツ車がのような頑丈な作りの車体をイメージしますが、このシムカはかなり軽量な作りでコストダウンを図っているようでした。実際Wikipediaにも以下のように掲載されています。

フランスの自動車メーカーの特徴として、たとえ大衆向け普及車であっても非常に個性の強い自動車を作っている傾向があるが、シムカの場合には普遍的で保守的な設計に徹しており、コストを低く保っていた。精神的な支柱となった人物像もなく、レース活動も無縁と地味な印象に終始した。

現在のフランス車ですが、2014年のフランス旅行の際にロワールの古城巡りに最新型のプジョー308ディーゼルをレンタカーで利用しました。このジャーニーではその後BMW X1とオペル・アストラもレンタルしたのですが、それらより断然乗りやすく快適だったことを覚えています。

さて、物語ですがシムカのコンサバティブさとは相反し、瑤子を中心とするアグレッシブなストーリーでエンディングを迎えます。そうです、冒頭に記載した通りこの小説のテーマは「素敵な女性と車との出逢いと別れ」ですので。